【ブランドアイデンティティ・コーポレートアイデンティティ】タグライン~ブランド、CIの本質を端的に伝える
ブランドの本質を端的に伝えるタグライン
【タグライン】ブランドアイデンティティの本質をギュッと凝縮
コーポレートスローガンとしてのタグライン
私たちは日頃からCMなど様々な媒体を通して、ブランドアイデンティティの本質を表現したスローガンやキャッチコピーに触れています。その中に日立製作所「Inspire the Next」のように長年展開されている企業のスローガンがあります。これはコーポレートアイデンティティにおけるタグラインで、日立製作所ではコーポレートステートメントと位置付けています。
なぜこれほど長きにわたり、一貫して展開されているのか?それはコーポレートロゴと同様、コーポレートアイデンティティの本質を表現しているからです。
開発にはビジョン・ミッション・バリューや企業理念、機能的価値や情緒的価値の明文化など、企業それぞれコーポレートアイデンティティの創造が必須です。この企業活動におけるコンセプト、コーポレートアイデンティティがベースにあるのでよくコーポレートロゴと組み合わされ、コミュニケーションメディア上で最も優先的なシグネチュアとして表示しています。
エバラでは「こころ、はずむ、おいしさ。」をブランドステートメントとし、一般消費者に向けたエクスターナルブランディングにおいて展開。ブランドロゴ(コーポレートロゴ)とシステム化し、CMなどコミュニケーションメディアで使用しています。一方『「こころ、はずむ、おいしさ。」の提供』を経営理念としていますが、これは主に一般消費者を除いたステークホルダーやインナーに向けたメッセージでしょう。
このタグライン、各社ともエッジを効かせた印象的なフレーズを開発し長期的に発信しています。社会的にすっかり醸成され、皆様にも強く印象に残っている秀逸なフレーズがあると思います。 参考までに以下、個人的に印象に残っているタグラインについて記憶とウェブサイトを頼りにざっとピックアップしてみました。今は展開していないものや、キャンペーンとしてのスローガン、キャッチコピーも含みます。
タグライン、コーポレートスローガン・ブランドスローガンの事例
- インテル入ってる [intel]
- Just Do It. [ナイキ]
- NO MUSIC, NO LIFE [タワーレコード]
- 目の付けどころが、シャープでしょ。 [シャープ 現行:Be Original.]
- ココロも満タンに [コスモ石油]
- お、ねだん以上。 [ニトリ]
- カカク、ヤスク [西友 前キャッチコピー]
- よく生きる [Benesse、ベネッセホールディングス]
- 愛は食卓にある。 [キューピー]
- Be a Driver. [マツダ]
- 子どもたちに誇れるしごとを。 [清水建設]
- ideas for life [Panasonic 現行:A Better Life,A Better World]
- あしたのもと [味の素 現行:Eat Well, Live Well.]
- すべてはお客さまの「うまい!」のために。 [アサヒビール]
- やっちゃえ NISSAN [日産自動車ブランドキャンペーンスローガン]
- i'm lovin' it [マクドナルド]
- ココロとカラダ、にんげんのぜんぶ、オリンパス [オリンパス]
- Human Chemistry, Human Solutions [テイジン:ブランドステートメント] ※DAKE JA NAI(だけじゃない。テイジン)は企業広告のキャッチフレーズ
マクドナルドの“i‘m lovin’ it”キャンペーン
世界に強い印象を残したマクドナルドの「i‘m lovin’ it」
「i‘m lovin’ it」グローバルキャンペーンとシグネチュアシステム。
タグラインはよくブランドロゴや企業ロゴに組み合わされ、最も優先的なシグネチュアとして表示されます。このシグネチュア、タグラインと併せ、ロゴをセットに視覚的に記憶され浸透します。
当方の印象に残っている事例ではマクドナルドがあります。マクドナルドは“M型アーチ”のシンボルマークを核にしたデザインシステムです。このマクドナルドのロゴは度々ブラッシュアップされ、その度に店舗エクステリアもリニューアルしています。ブラッシュアップする度にロゴの造形品質が上がって美しくなり、店舗等を含めたブランドビジュアルデザイン全体の完成度も高くなっています。VIをしっかりマネジメントしている事例です。
以前は“McDonald‘s”のロゴタイプと組み合わされていましたが、今はシンボルマーク単体が基本です。世界中にすっかり浸透しきったロゴですので、シンボルマーク単体で展開しても問題ありません。店舗においてもM型アーチのポールサインがあれば遠距離からでも一発で認識されます。
そのマクドナルド、2003年頃に「i‘m lovin’ it」キャンペーンをグローバル規模で展開し、その際“i‘m lovin’ it”のロゴタイプを組み合わせました。それまで当たり前のようにあった“McDonald‘s”を外しM型アーチ単体にした上で“i‘m lovin’ it”を組み合わせ、CMを軸にコミュニケーションを展開。この「i‘m lovin’ it」キャンペーンは、特にサウンドロゴをはじめ世界に強い印象を残しました。外部にクレジットしていませんが、多くの著名クリエイターが参画していたようです。これ以来、マクドナルドの広告宣伝からVIまで一連のブランドコミュニケーションには注目しています。
経営戦略とブランディングを両輪にした上でVIを管理しているマクドナルド。
かつてM型アーチ上に“McDonald‘s”が重なっていたロゴでは、サインやファサード含めた全体のブランドビジュアルデザインが洗練しきれないため、個人的にVIの基本システムを見直した方がいいのでは?と感じていました。そこへ「i‘m lovin’ it」キャンペーンが開始され、当時は「うまいな~」と思ったものです。
現在は筆記体による「McCafé」のロゴタイプと組み合わせています。これもロゴの造形品質において完成度が高いです。「i‘m lovin’ it」キャンペーンは低迷した時分に展開しましたが、ブランディングには相当な規模に及び相応の投資がなされているでしょう。前述の通りVIについても、PDCAをしっかり実施した上でマネジメントしている事がうかがえます。
広告戦略の一環として発信。CMにより大きな効果を生む。
TVCMを軸にした広告メディアミックスで大きな効果を生む。
インテルのブランドキャンペーン「インテル入ってる(Intel Inside)」。
インテルでは印象的なサウンドロゴとの相乗効果による、有名な「インテル入ってる(Intel Inside)」のブランドキャンペーンをかつて展開しました。素材ブランドと申しますか、製品を構成する部品のブランドとして一般消費者に認知したことで非常に印象に残っています。このキャンペーンは検索したところ、日本側から提案した企画のようです。
CPUはパソコンの性能を決定づける最も重要なパーツです。PCそのものとしての製品ブランドと異なりPCの内部を構成しているため、コンシューマーには見えず具体的なイメージが想起しにくいものです。それまで一般ユーザーにおいてはBtoBの領域であり、ブランドとして広く浸透するというのはなかなか難しいのでは?と考えていました。しかしこのブランドキャンペーンでその考えを覆しました。日本語の親しみやすいフレーズも功を奏し一気に浸透。インテルのステッカーがPCの性能を保証する証明となり、PC自体のブランドイメージを左右するまでになりました。
ナイキのタグライン「Just Do It.」。
30年以上、タグライン「Just Do It.」を展開し続けているナイキ。90年代半ばからインパクトが強いビジュアルや動画による広告展開を開始し、当初ブラッシュアップしたスウィッシュマークを単独で展開するなど、ビジュアル面から非常に強い印象を残しました。このタグラインではサウンドロゴや音声など使用せず「Just Do It.」の表示だけだったと記憶しています。
英文タグラインもブランドアイデンティティの醸成が成される。
英文タグラインの開発では広告キャッチコピー開発に熟練した、ネイティブのライターを開発チームに割り当てます。英文による“粋な”フレーズを創ってくれます。
英文だと日本人には意味がすぐに伝わらず、漠然とするのでは?という危惧があるかもしれません。しかし気の利いたフレーズなら英文でもブランドアイデンティティの醸成は成されます。日本でも和製英語を含み英語には日常的に触れているため、新規性があったりカッコいいと感じるフレーズがあります。
それでもなおターゲティング等により英文タグラインに懸念がある場合は、国内展開では日本語、海外ではそれぞれの国に合うようローカライズする等の対応が必要になるでしょう。「インテル入ってる(Intel Inside)」などは日本の人々にとっては大変馴染みやすく親しみのある印象が伝わり成功した事例と思います。
導入段階から広告戦略の一環として注目を集める。
日産の「やっちゃえ NISSAN」、「ぶっちぎれ 技術の日産」キャンペーンでは矢沢永吉を起用した強いメッセージで注目を集めることに成功しています。現在はブランドロゴを一新し、改めて「やっちゃえ NISSAN」キャンペーンを展開、それに伴い木村拓哉を“ブランドアンバサダー”として起用しています。これはタグラインというより広告を軸にしたブランドコミュニケーション全体におけるキャッチコピーなので、コーポレートスローガンとしての位置づけではありません。
いち消費者として思うことですが、印象に残るフレーズの多くはその導入段階から広告戦略の一環として展開し、強い印象を生み認知・醸成に成功しています。消費者にとって広告、とりわけ音や動きと連動するTVCMや動画から生まれる効果は大きいと思います。未だに記憶に残るシャープの「目の付けどころが、シャープでしょ。」、コスモ石油が数十年展開しサウンドロゴが心地良い「ココロも満タンに」など、コスモ石油のそれに至っては各ステークホルダーにとっての財産と言っていいかもしれません。社会との接触においてWEBメディアがテレビメディアを超えたといわれる現代でも、動画は非常に効果的です。
社内活性化。インターナルブランディングの一環、タグライン開発。
以上についてはマスメディアに相応の投資が行える企業になります。そのため多くはインターナルブランディングの一環として社内活性化を図るなど、社内的な取り組みをタグライン開発の主な目的にすることが現実的と思います。
タグラインは社員などインナーにおいても、社内活性化やモチベーション向上における効果は大きいです。ある金融企業で新しいスローガンを展開する際に、とり急ぎ社員自ら名刺に貼るシールを配布したとのことですが、要望が多すぎて印刷が間に合わなかった話を聞いたことがあります。
タグラインの開発にあたっては企業ロゴと同様、コーポレートアイデンティティの創造が必須です。このコーポレートアイデンティティの創造では企業それぞれとはいえ、ワークショップを通して意見を吸い上げるなど、社員皆様に参加いただきながら創造します。このコミットメントを促す取り組みが社内活性化に結びつきます。相当数の社内推進メンバーがミーティングを重ね、当方からの提案を叩き台にして逆提案を受けることもあります。そのやり取りを重ね最終案に収斂していくわけですが、デザインとは異なり言語のため、多くの方が意見を出しやすいということもコミットメントを促すことにつながります。
タグラインの開発ではないですが、インターナルブランディングに関して当方が手掛けたCI/VI案件では、新しい企業ロゴを印刷したIDカードのストラップに社員の皆様が殺到して製造が間に合わなかったという企業がありました。ちょっとしたアイテムですが単に帰属意識だけでなく、社や自身の仕事にプライドを持っている事、自身を鼓舞したい事の現れなのでしょう。
社長や役員の皆さんにとっては、社内活性化などインターナルブランディングの方に意義を感じる方も多いのではないでしょうか?
終わりに
社会情勢を反映するタグライン。
大企業が中心になってしまいますが、これまで数々露出されてきた日本企業のタグラインやキャッチフレーズを追うと、導入当時の時流も垣間見えてきます。タグラインはコーポレートアイデンティティをベースに開発され長期にわたり使用されるものとはいえ、場合によっては様々な社会情勢を反映するようです。
2000年以降にはグローバル化を背景に国内でも英文タグラインが一般的になった時期、またSDGsが提唱されて以降は東日本大震災も影響してか、“未来”や“共に”というキーワードが増えた時期もありました。そこには優先すべき社会的背景もあることが伺えます。
最近は「やっちゃえ NISSAN」など、際立った独自性やインパクトを求める志向が戻ってきたように感じます。今後はアイデンティティを表現することに変わりありませんが、引き続きSDGsを背景に公共性の高さを意識したメッセージや、コロナ禍による様々な影響を反映しより国内を意識したメッセージが展開されていくのではと思います。